居宅介護支援のBCP(業務継続計画)|作り方と項目チェックリスト

「BCPは作った。ファイルにも綴じてある。でも中身は正直、覚えていない」——居宅介護支援事業所でよく聞く話です。BCP(業務継続計画)は全介護サービス事業者に策定が義務づけられており、未策定は運営基準違反にあたります。しかも訓練と見直しまでがセットです。この記事では、居宅介護支援事業所のBCPに何を書き、どう運用すればよいのかを、作成手順とチェックリストつきで解説します。
- BCP(業務継続計画)とは何か、防災マニュアルとの違い
- 居宅介護支援事業所に求められる感染症編・自然災害編の中身
- BCPに盛り込むべき項目のチェックリスト
- 作成の4ステップと、研修・訓練・見直しの進め方
- 未策定だとどうなるか(運営指導・減算のリスク)
BCP(業務継続計画)とは?「止めないため」の計画
BCPとは Business Continuity Plan の略で、日本語では業務継続計画と訳されます。感染症の流行や自然災害といった非常事態が起きたときに、事業を止めない、あるいは止まっても早期に再開するための計画です。
ここで混同されやすいのが、従来からある防災マニュアルとの違いです。
| 防災マニュアル | BCP(業務継続計画) | |
|---|---|---|
| 目的 | 人命の安全確保 | 業務の継続・早期復旧 |
| 時間軸 | 発災直後が中心 | 発災直後から復旧までの全期間 |
| 主な内容 | 避難経路・初期対応 | 優先業務の絞り込み・人員体制・代替手段 |
| 問いの立て方 | 「どう逃げるか」 | 「誰の何を、どう続けるか」 |
BCPは、防災マニュアルの代わりではなくその先を考える計画です。全員が無事に避難できたとして、その翌日から利用者のケアマネジメントをどう続けるのか。そこがBCPの問いになります。
新人うちは小さな事業所でケアマネ2人だけです。それでもBCPは必要ですか?
先輩規模に関係なく必要よ。むしろ2人しかいない事業所ほど、1人倒れたときの影響が大きいでしょう。「もう1人が感染して10日間出勤できない」という状況を、紙に書いて考えたことがあるかどうか。それがBCPなの。
居宅介護支援でBCPが必要な理由
入所施設と違い、居宅介護支援事業所は利用者を預かっていません。だからこそ「うちは止まっても直接の危険はない」と考えがちですが、実際は逆です。
- 安否確認の担い手がいなくなる…災害時、在宅の高齢者の状況を把握しているのはケアマネジャーです。
- サービスの再調整ができない…通所や訪問が止まったとき、代替手段を組み直すのはケアマネジャーの役割です。
- 給付管理が止まる…月末月初に事業所機能が停止すると、給付管理業務が滞ります。
- 新規の相談が受けられない…災害時こそ、退院支援や緊急のサービス調整の需要が増えます。
BCPに盛り込む項目【チェックリスト】
BCPは感染症編と自然災害編の2つを備えるのが基本です。共通して必要な項目と、それぞれ固有の項目を整理します。
共通して必要な項目
- 総則(目的・基本方針・推進体制)
- 意思決定者と代替者(責任者が不在のとき誰が判断するか)
- 職員の連絡網と参集基準
- 優先して継続する業務の一覧と優先順位
- 必要な備蓄・設備(通信手段・電源・記録媒体)
- 関係機関の連絡先一覧(保険者・地域包括・サービス事業所・医療機関)
- 研修・訓練の計画
- 計画の見直し時期
感染症編に固有の項目
- 職員が感染・濃厚接触となった場合の勤務体制
- 利用者に感染者が出た場合の対応と情報共有の範囲
- 訪問の可否判断の基準(電話モニタリングへの切り替え条件)
- 感染防護具の備蓄量と調達先
- 事業所内での感染対策(換気・消毒・ゾーニング)
自然災害編に固有の項目
- 事業所が立地するハザードマップ上のリスク(浸水・土砂・地震)
- 利用者の安否確認の順序と方法
- 停電・断水・通信途絶時の代替手段
- 記録データのバックアップ方法と保管場所
- 事業所が使用不能になった場合の代替場所
BCP作成の4ステップ
- ひな形を入手する厚生労働省が介護事業所向けのBCPガイドラインとひな形を公開しています。ゼロから書かず、まずひな形を埋めることから始めます。
- 自分の事業所の事情に置き換えるひな形のままでは使えません。所在地のハザードマップ、実際の職員数、担当件数、使っている介護ソフトを反映させます。
- 優先業務を絞り込む「全部大事」では計画になりません。人員が半分になった状態で何を残すかを決めます。多くの場合、安否確認と緊急のサービス調整が最優先になります。
- 職員全員で共有する管理者だけが知っている計画は機能しません。全員が「自分は何をするのか」を言える状態にして、はじめて計画になります。
新人ひな形をそのまま使うのは、やっぱりまずいですか?
先輩運営指導で見られるのは「その事業所の実情に合っているか」なの。地名も職員数も空欄のまま、ひな形の例文が残っている計画は、作っていないのと同じと判断されかねないわ。最低限、固有名詞と数字は自分のものに置き換えることね。
研修・訓練・見直しまでが義務
BCPは作って終わりではありません。策定に加えて、次の3つが求められます。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 研修 | 職員へBCPの内容を周知する。定期的な実施が必要 |
| 訓練(シミュレーション) | 計画に沿って実際に動いてみる。机上訓練でも可 |
| 定期的な見直し | 職員の入れ替わり、連絡先の変更、担当利用者の変化を反映する |
訓練は大がかりなものである必要はありません。「金曜の夕方に震度6の地震が起きたら、月曜までに誰が何をするか」を1時間話し合うだけでも訓練になります。重要なのは、実施した記録を残すことです。
未策定だとどうなるか
BCPの策定は運営基準に位置づけられており、未策定は基準違反となります。運営指導で指摘を受け、改善を求められます。
さらに、令和6年度の介護報酬改定では業務継続計画未策定減算が設けられました。BCPを策定していない事業所は、所定単位数から減算される仕組みです。
よくある質問(FAQ)
感染症編と自然災害編は、1つの文書にまとめてもよいですか?
一人ケアマネの事業所ではどう作ればよいですか?
訓練は年に何回必要ですか?
BCPは誰かに提出する必要がありますか?
利用者や家族にBCPの内容を伝える必要はありますか?
- BCPは「どう逃げるか」ではなく「誰の何を、どう続けるか」を決める計画。防災マニュアルの先を考えるもの。
- 居宅介護支援が止まると、在宅の要介護者を束ねる調整役が消える。規模の大小に関係なく必要。
- 感染症編と自然災害編を備え、優先業務・意思決定者の代替・連絡網・安否確認の順序を明記する。
- 作成は「ひな形→自事業所に置換→優先業務の絞り込み→全員で共有」の4ステップ。固有名詞と数字は必ず自分のものに。
- 策定だけでなく研修・訓練・見直しまでが求められる。訓練の目的は「穴を見つけること」。
















