ケアマネジャーの倫理的葛藤ってどんなことがある?具体例を紹介

ケアマネジャー(介護支援専門員)の仕事は、単にケアプランを作ることではありません。
利用者・家族・サービス事業者・医療機関・行政など、多くの関係者の間に立ち、最善の支援を調整する専門職です。
その中で避けて通れないのが 「倫理的葛藤(ジレンマ)」 です。
- 本人の希望と家族の希望が違う
- 本人の安全と自己決定が対立する
- 事業所の利益と利用者の利益がぶつかる
こうした場面で、「どれが正しいのか分からない」と悩むことは珍しくありません。
この記事では、ケアマネジャーが直面しやすい倫理的葛藤について、具体例を交えながら詳しく解説します。
倫理的葛藤とは何か?
倫理的葛藤とは、どちらを選んでも何らかの価値を損なう可能性がある状況のことです。
ケアマネジャーの倫理の基本には、以下のような価値があります。
- 利用者の自己決定の尊重
- 尊厳の保持
- 公平性
- 誠実性
- 専門職としての中立性
しかし、現実の現場ではこれらが常に両立するとは限りません。
だからこそ、ケアマネは「正解のない選択」に向き合う場面が多いのです。
① 自己決定と安全確保の葛藤
最も多いのがこのケースです。
具体例
要介護3の独居高齢者。
転倒歴があり、家族は施設入所を希望。
しかし本人は「絶対に家で暮らしたい」と強く主張している。
この場合、
- 本人の自己決定を尊重すべきか
- 転倒リスクを考えて施設を勧めるべきか
という葛藤が生じます。
どこが難しいのか?
自己決定を優先すれば事故リスクが高まる可能性があります。
安全を優先すれば本人の尊厳や生活の質を損なう可能性があります。
ケアマネは、
- リスクを具体化する
- 代替案(訪問回数増加・福祉用具活用など)を検討する
- 本人に十分な説明を行う
などのプロセスを通じて、最善を模索します。
② 本人と家族の意向の対立
非常に多い倫理的葛藤です。
具体例
認知症の利用者がデイサービスを拒否。
家族は「家にいると何もしないから通ってほしい」と希望。
この場合、
- 本人の意思を尊重するか
- 家族の介護負担軽減を優先するか
という対立が起こります。
ポイント
ケアマネはどちらかの味方になる職種ではありません。
中立性を保ちながら、両者の価値を整理する必要があります。
- 本人の拒否の理由は何か
- 家族の困りごとは何か
- 折衷案はないか
感情論にならず、事実とニーズを整理することが重要です。
③ サービス事業所との関係における葛藤
ケアマネはサービス事業所と密接に関わります。
具体例
特定の事業所から「うちを使ってほしい」と強く依頼される。
しかし、他により適した事業所がある。
この場合、
- 関係性を優先するか
- 利用者にとっての最善を優先するか
という葛藤が生じます。
ケアマネは営利企業の営業担当ではありません。
あくまで利用者本位が原則です。
特定事業所への偏りは、公平性の観点から問題になります。
④ 経済的事情と必要な支援の葛藤
現実問題として、経済的制約は大きな壁になります。
具体例
本来なら訪問看護が必要な状態。
しかし家族が「自己負担が高いから無理」と拒否。
この場合、
- 経済的負担を尊重するか
- 必要な医療的支援を優先するか
で悩むことになります。
ケアマネは、
- 負担割合の確認
- 高額介護サービス費制度の説明
- 代替サービスの提案
などを通じて選択肢を提示します。
⑤ 虐待やネグレクトの疑い
非常に重い倫理的葛藤です。
具体例
訪問時に家族の怒鳴り声が聞こえる。
利用者に不自然なあざがある。
通報すれば家族との関係が悪化する可能性があります。
しかし通報しなければ利用者を守れない可能性があります。
ケアマネには通報義務があります。
この場面では「関係維持」よりも「安全確保」が優先されます。
⑥ 秘密保持と情報共有の葛藤
ケアマネは守秘義務を負っています。
しかし、
- 医療機関に伝えるべきか
- 家族にどこまで話すか
と迷う場面もあります。
例えば、利用者が「家族には言わないで」と話した内容が、明らかに安全に関わる問題だった場合。
この場合、
- 秘密保持
- 生命・安全の保護
が対立します。
原則は本人同意ですが、重大な危険がある場合は例外もあり得ます。
⑦ 終末期における倫理的葛藤
終末期では特に葛藤が増えます。
- 延命治療を望む家族
- 自然な最期を望む本人
- 医療側の判断
ケアマネは医療判断をする立場ではありませんが、意思決定支援を行う役割があります。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の視点が重要になります。
倫理的葛藤にどう向き合うか?
倫理的葛藤に「完璧な答え」はありません。
しかし、向き合う姿勢は重要です。
① 一人で抱え込まない
- 管理者に相談
- 地域包括支援センターへ相談
- 事例検討会の活用
客観的視点を入れることが大切です。
② 倫理原則に立ち返る
- 自己決定の尊重
- 最善利益
- 公平性
- 説明責任
どの価値を優先するのか整理します。
③ 記録を残す
葛藤があった経緯、検討内容、判断理由を記録することが重要です。
倫理的葛藤は「悪いこと」ではない
葛藤を感じるということは、真剣に利用者のことを考えている証拠です。
何も迷わない状態の方が危険です。
- なぜ悩んだのか
- どの価値が対立していたのか
を振り返ることで、専門職として成長できます。
まとめ
ケアマネジャーの倫理的葛藤には、次のようなものがあります。
- 自己決定と安全の対立
- 本人と家族の意向の違い
- 事業所との利害関係
- 経済的制約
- 虐待の疑い
- 秘密保持と情報共有
- 終末期の意思決定
ケアマネの仕事は「正解を出すこと」ではなく、
最善を尽くすことです。
倫理的葛藤は避けられません。
しかし、丁寧な説明・記録・相談を重ねることで、より良い支援につながります。
悩むことは、専門職として誠実である証です。
葛藤を恐れず、向き合い続ける姿勢こそが、ケアマネジャーの価値なのです。
















