リハビリの中止基準|アンダーソン・土肥の基準と判断手順

「今日はリハビリを進めてよいのか、休ませるべきか」——判断に迷う場面は、病棟でも在宅でも毎日のように起こります。血圧が少し高い、いつもより元気がない。そんなとき、拠りどころになるのが中止基準です。
この記事では、リハビリを始める前・実施中に確認する基準と、迷ったときの判断の手順を整理しました。
- リハビリの中止基準の考え方(3つの段階)
- アンダーソン・土肥の基準の内容
- 開始前に確認するバイタルサインの目安
- 実施中に中止を判断するサイン
- 中止したあとの対応と記録の残し方
リハビリの中止基準とは|3つの段階で考える
中止基準とは、リハビリを安全に行うために、実施の可否を判断する目安です。実務では、次の3つの段階に分けて考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 判断すること |
|---|---|
| 開始前 | そもそも今日、実施してよい状態か |
| 実施中 | 中断・中止すべき変化が出ていないか |
| 実施後 | 負荷が適切だったか、次回どう調整するか |
中止基準というと「途中でやめる条件」と受け取られがちですが、いちばん大事なのは開始前の確認です。始めてよい状態かどうかを見極められれば、途中で中止する場面は減ります。
新人数値が基準を少し超えていたら、必ず中止なのでしょうか。
先輩そこは機械的に決めないほうがいいわ。ふだんの値と比べてどうか、自覚症状があるか、この2つをセットで見るの。いつも血圧が高めの人と、急に上がった人では意味がまったく違うでしょう。
アンダーソン・土肥の基準
運動療法の可否を判断する目安として、長く使われてきたのがアンダーソンの基準を土肥が改訂したものです。3つの区分で構成されています。
Ⅰ.運動を行わないほうがよい場合
- 安静時の脈拍が1分間に120回以上
- 拡張期血圧が120mmHg以上
- 収縮期血圧が200mmHg以上
- 労作性狭心症の症状が最近ある
- 新しく心房細動が出現している
- 心筋梗塞から1か月以内
- うっ血性心不全の所見が明らかにある
- 心房細動以外の著しい不整脈がある
- 運動前にすでに動悸・息切れがある
Ⅱ.途中で運動を中止する場合
- 中等度以上の呼吸困難、めまい、吐き気、狭心痛が出たとき
- 脈拍が1分間に140回を超えたとき
- 1分間に10回以上の期外収縮、頻脈性の不整脈、徐脈が出たとき
- 収縮期血圧が40mmHg以上、または拡張期血圧が20mmHg以上上がったとき
Ⅲ.いったん休み、回復を待って再開する場合
- 脈拍が運動前より30%を超えて増えたとき(2分の安静で10%以下に戻らなければ、以後は中止か極めて軽い運動に切り替える)
- 脈拍が1分間に120回を超えたとき
- 1分間に10回以下の期外収縮が出たとき
- 軽い動悸・息切れが出たとき
開始前に確認すること
| 確認項目 | 見るところ |
|---|---|
| 血圧・脈拍 | ふだんの値との差。急な変化がないか |
| 体温 | 発熱の有無。感染の兆候がないか |
| 呼吸 | 安静時の息切れ、酸素飽和度(指示がある場合) |
| 自覚症状 | 胸の痛み、動悸、めまい、強い倦怠感 |
| 睡眠・食事 | 前夜眠れたか、食事がとれているか |
| 痛み | ふだんより強い痛みが出ていないか |
| 服薬 | 降圧薬や睡眠薬を飲み忘れていないか、追加していないか |
とくに在宅では、前回の訪問から次までの間に何があったかを家族から聞き取ることが欠かせません。転倒、受診、薬の変更は必ず確認します。
実施中に中止を判断するサイン
数値に表れる前に、見た目や言葉に変化が出ることがあります。次のサインに気づいたら、いったん休みます。
- 顔色が青白い、または赤くほてっている
- 冷や汗が出ている
- 返事が遅い、話す言葉がはっきりしない
- 足元がふらつく、立ち直りが遅い
- 「しんどい」と言わないが、表情がこわばっている
- 呼吸が浅く速い、会話が続かない
「いつもと違う」は、それだけで中止の理由になります。判断に迷ったら、続けるより休むほうを選びます。
新人本人が「まだ大丈夫」と言って続けたがるときはどうしますか。
先輩意欲は大切にしたいわね。でも、そこで無理をして倒れたら、その後しばらく動けなくなってしまう。「今日はここまでにして、明日また続けましょう」と、次につながる止め方を伝えるの。禁止ではなく延期として伝えると、納得してもらいやすいわ。
疾患別に気をつけたいこと
| 状態 | とくに注意すること |
|---|---|
| 心疾患 | 胸の痛み、動悸、息切れ。医師から個別の運動の上限が示されていることが多い |
| 呼吸器疾患 | 安静時の息切れ、酸素飽和度の低下、口すぼめ呼吸の乱れ |
| 脳血管障害 | 血圧の急な変動、麻痺側の症状の変化、話しにくさ |
| 糖尿病 | 低血糖(空腹時、食事がとれていないとき)。冷や汗、ふるえ、集中力の低下 |
| 骨折後・骨粗鬆症 | 荷重の制限、痛みの増強。医師の指示範囲を超えない |
| がん | 骨転移がある場合の荷重、貧血、治療の副作用による体調の波 |
在宅・通所での中止基準の運用
病院と違い、在宅や通所ではその場に医師がいません。だからこそ、あらかじめ決めておくことが重要です。
- 個別の基準を主治医に確認しておく心疾患などがある人は、「脈拍が何回を超えたら中止」など、個別の指示をもらっておきます。
- 連絡先と手順を紙にしておく中止したときに誰へ連絡するか、受診の目安はどこかを、事業所で共有します。
- 家族に基準を伝えておく「こういうときは休んでください」と具体的に伝え、自主練習にも同じ基準を使ってもらいます。
- 記録の様式に確認欄をつくるバイタルと自覚症状を毎回記録できるようにし、変化を追えるようにします。
中止したあとの対応
中止して終わりにせず、次の流れで対応します。
- 安静にして様子を見る:楽な姿勢をとり、症状が落ち着くかを確認する
- バイタルを再測定する:回復しているかを数値で確かめる
- 回復しなければ連絡する:主治医・看護職・家族へ、時系列で状況を伝える
- 記録に残す:中止した理由、そのときの数値、症状、経過、連絡先を書く
- 次回の計画を見直す:同じことが起きないよう、内容や時間帯を調整する
記録に書いておきたいこと
記録は、次に関わる人への申し送りであり、事故が起きたときに判断の妥当性を示す材料にもなります。「中止した」だけでは不十分です。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| いつ | 開始から何分の時点か |
| 何があったか | 「歩行練習中にふらつき、冷や汗あり」 |
| 数値 | 中止時と、安静後の血圧・脈拍 |
| 対応 | 「臥床にて10分安静。血圧136/78へ回復」 |
| 連絡 | 「14時20分、訪問看護へ報告。翌日受診の方針」 |
中止が続くときに考えること
毎回のように中止になるなら、中止基準ではなく、計画そのものを見直すサインです。時間帯が本人の体調に合っていない、負荷が高すぎる、そもそも体調が安定していない——原因はさまざまです。リハビリテーション会議やサービス担当者会議の場で、多職種と一緒に組み立て直しましょう。会議の進め方はリハビリテーション会議とはで解説しています。
参考:中止基準の数値は、出典や施設によって細部が異なります。ここで挙げた値は広く用いられている目安であり、自施設のマニュアルと突き合わせて使ってください。
よくある質問(FAQ)
リハビリの中止基準はどこで決まっていますか?
血圧が基準を少し超えていたら必ず中止ですか?
介護職や家族も中止基準を知っておく必要がありますか?
中止したら、その日は何もしないほうがよいですか?
ケアマネは中止の連絡を受けたらどう動きますか?
- 中止基準は「開始前」「実施中」「実施後」の3段階で考える
- アンダーソン・土肥の基準は、行わない場合・中止する場合・一時中止の3区分
- 数値は入口。ふだんとの差と自覚症状をあわせて判断する
- 「いつもと違う」と感じたら、それだけで休む理由になる
- 中止したら、数値・症状・対応・連絡を記録に残し、次回の計画を見直す











