寝たきりの人の着替え介助|脱健着患の手順とコツ

「寝たきりの人の着替えに、毎回30分かかってしまう」——腕が通らない、体を起こせない、痛がらせてしまう。着替えは、在宅介護でつまずきやすい場面のひとつです。
この記事では、寝たまま行う着替えの基本手順と、体に負担をかけないコツを整理しました。順番を変えるだけで、ずいぶん楽になります。
- 着替えの前に整えておく準備
- 「脱健着患」という基本の順番
- 上着・ズボンそれぞれの手順
- 関節が硬い人、痛みがある人への配慮
- 着替えが楽になる衣類の選び方
寝たきりの人の着替えの介護|基本は「脱健着患」
まず覚えたいのが、脱健着患(だっけんちゃっかん)という言葉です。麻痺や痛みがある人の着替えの順番を表しています。
| 場面 | どちらから | 理由 |
|---|---|---|
| 脱ぐとき | 健側(動くほう)から | 動くほうを先に抜けば、患側は引き抜くだけですむ |
| 着るとき | 患側(動きにくいほう)から | 先に通しておけば、無理に動かす場面が減る |
逆にすると、動きにくい腕を最後に袖へ通すことになり、肩をひねって痛めるおそれがあります。順番を守るだけで、痛みも時間も減ります。
新人麻痺がない人でも、この順番でよいのですか。
先輩痛みがある側、動かしにくい側を「患側」と考えれば同じよ。関節が硬い人、肩が上がらない人も同じ順番。迷ったら、動かしにくいほうを先に着せると覚えておけばいいわ。
始める前の準備
- 室温を上げる肌を出すため、ふだんより高めにします。冬は22〜25度が目安です。
- 衣類を広げて並べる袖や裾を通しやすい向きに、あらかじめ整えておきます。
- ベッドの高さを合わせる介助者の腰の高さに上げると、前かがみを減らせます。
- 声をかける「服を替えますね」「右手を通しますよ」と、動きの前に必ず伝えます。
- タオルを用意する出ていない部分をおおい、体が冷えるのと羞恥心を防ぎます。
上着の着替えの手順
前開きの上着を例にします。かぶるタイプより、前開きのほうが格段に楽です。
- ボタンを外し、前を開く体の上で左右に開きます。
- 健側の袖を抜く肩を少し浮かせ、腕を引き抜きます。
- 横向きにする健側を下にして横を向いてもらい、脱いだ服を背中の下に丸め込みます。
- 新しい服を半分敷き込む丸めた新しい服を、背中の下に入れ込みます。
- 仰向けに戻す反対側から、古い服を引き出し、新しい服を引き出します。
- 患側の袖を通す介助者の手を袖口から入れて本人の手を握り、袖のほうを引き上げます。
- 健側の袖を通す最後に動くほうの腕を通します。
- しわを伸ばす背中のしわは床ずれのもとです。手を差し入れて必ず整えます。
ズボンの着替えの手順
- 膝を立てる両膝を立ててもらうか、介助者が支えて立てます。
- 腰を浮かせて下ろす膝を立てたまま腰を上げてもらい、ズボンを太ももまで下げます。上がらなければ、横向きにして片側ずつ下ろします。
- 足を抜く健側から抜きます。
- 患側から通す新しいズボンは、動かしにくいほうの足から通します。
- 腰まで引き上げる再び腰を浮かせるか、横向きにして左右から引き上げます。
- しわとよじれを直す股や腰まわりのよじれを取ります。
関節が硬い人・痛みがある人への配慮
| 状態 | 配慮 |
|---|---|
| 肩が上がらない | 袖を大きく開き、腕を横に広げず、体に沿わせて通す |
| 肘や膝が伸びない | 無理に伸ばさない。曲がったまま通せる、ゆとりのある服を選ぶ |
| 手指が握り込んでいる | 手のひらを傷つけないよう、介助者の手で包んでから袖を通す |
| 痛みが強い | 鎮痛薬の効いている時間帯に行う。主治医に相談する |
| 床ずれがある | 患部を圧迫しない向きで行い、しわを残さない |
関節は、動く範囲の内側で扱うのが原則です。抵抗を感じたら、そこで止めます。
新人急いでいると、つい引っぱってしまいます。
先輩気持ちは分かるわ。でも、無理に引くと関節を痛めるだけでなく、皮膚が裂けることもあるの。高齢の方の皮膚は薄いから。時間がないときほど、服のほうを変えるのが正解よ。
着替えが楽になる衣類の選び方
- 前開き:かぶるタイプより圧倒的に楽
- 伸びる素材:ニットなど、伸縮性のあるもの
- ゆとりのあるサイズ:ワンサイズ上を選ぶ
- 面ファスナーや大きめのボタン:指先の力が弱くても留められる
- 背中に縫い目や飾りがないもの:寝ている時間が長いと、床ずれの原因になる
- ウエストがゴムのズボン:ベルトやファスナーは避ける
市販の介護用衣類のほか、ふだんの服でも「前開き・伸びる・大きめ」の3つを満たせば十分です。本人の好みを尊重した服を選ぶことも、暮らしの張りにつながります。
着替えのタイミングと頻度
毎日決まった時間に着替えると、生活のリズムがつきます。朝は日中用の服に、夜は寝間着にというように、昼と夜の区切りをつくることが、昼夜逆転を防ぐ助けにもなります。汗をかいたとき、汚れたときは、その都度替えます。すべてを一度に行おうとせず、上だけ、下だけと分けて行う方法もあります。
皮膚を見る機会として使う
着替えは、全身の皮膚を見られる数少ない場面です。次の点を、着替えのたびに確認しましょう。
- おしり、かかと、背中の赤み(床ずれのはじまり)
- 手足の傷、内出血
- むくみの程度
- 皮膚の乾燥、かさつき
- 関節の動く範囲が狭くなっていないか
気づいたことは記録し、訪問看護やケアマネに伝えます。早く見つかるほど、対応は簡単ですみます。
介助する人の体を守る
着替えは、介助する側が前かがみになりやすい動作です。腰を痛めると介護そのものが続けられなくなるため、自分の体を守る工夫も手順のうちと考えてください。
- ベッドの高さを上げる:腰の高さに合わせ、前かがみをなくす
- 足を前後に開いて立つ:体重の移動で動かし、腕の力だけで引かない
- 体をひねらない:向きを変えるときは、足ごと体の向きを変える
- 本人に近づく:離れた位置から手を伸ばすほど、腰への負担が増える
- 2回に分ける:上と下を別の時間に行えば、1回あたりの負担が減る
参考:1人での介助が難しくなってきたら、訪問介護の身体介護で着替えを依頼できます。福祉用具や介護ベッドの導入で楽になることもあるため、ケアマネに相談してください。
よくある質問(FAQ)
寝たきりの人の着替えは1日に何回必要ですか?
かぶりタイプの服しかない場合は?
1人で着替えを介助できますか?
着替えを嫌がるときはどうしますか?
着替えはヘルパーに頼めますか?
- 着替えの基本は「脱健着患」。脱ぐのは動くほうから、着るのは動きにくいほうから
- 横向きを使えば、体を起こさずに上着を替えられる
- 袖は腕を押し込まず、介助者の手で迎えにいく
- 前開き・伸びる素材・ゆとりのあるサイズを選ぶと負担が減る
- 着替えは全身の皮膚を観察できる機会。赤みや傷は早めに報告する
















