障害者虐待防止法とは?5つの虐待と通報義務・事業所の義務

「障害者虐待防止法では、どんな行為が虐待になる?」「事業所で虐待に気づいたら、どこに通報すればいい?」「虐待防止の委員会や研修は、何をすればいいの?」。障害福祉サービスの事業所では、虐待防止の取り組みが義務になり、行っていない事業所は減算の対象にもなっています。
結論からいうと、障害者虐待防止法は、身体的・性的・心理的・放棄放置(ネグレクト)・経済的の5つの虐待を定め、虐待を受けたと思われる障害者を見つけた人に、市町村への通報を義務づけています。事業所には、委員会・指針・研修・担当者の4つの体制づくりが求められます。この記事では、法律の基本、通報のルール、事業所の義務と具体的な進め方をまとめました。
- 障害者虐待防止法の目的と、3つの虐待の主体
- 5つの虐待の種類と具体例
- 通報義務と、通報した職員の保護
- 事業所に義務づけられた虐待防止の取り組みと進め方
障害者虐待防止法とは
障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)は、2012年10月に施行された法律です。障害者の尊厳を守り、虐待を防ぎ、早く見つけて対応することと、虐待をしてしまった養護者(家族など)への支援を目的としています。
法律では、虐待をする人(主体)を次の3つに分けています。
| 虐待の主体 | 例 | 主な通報先 |
|---|---|---|
| 養護者 | 同居の家族など、障害者の世話をしている人 | 市町村 |
| 障害者福祉施設従事者等 | 障害者支援施設や障害福祉サービス事業所の職員 | 市町村 |
| 使用者 | 障害者を雇っている事業主や上司 | 市町村または都道府県 |
高齢者虐待防止法と考え方は似ていますが、障害者虐待防止法には「使用者による虐待」がふくまれているのが大きな違いです。
5つの虐待の種類と具体例
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 身体的虐待 | たたく、つねる、無理やり食べさせる、正当な理由のない身体拘束(縛る、部屋に閉じ込める) |
| 性的虐待 | わいせつな行為をする・させる、裸にして放置する |
| 心理的虐待 | 怒鳴る、ばかにする、無視する、子ども扱いする、仲間外れにする |
| 放棄・放置(ネグレクト) | 食事や入浴をさせない、必要な医療を受けさせない、ほかの利用者からの暴力を放置する |
| 経済的虐待 | 年金や工賃を本人の同意なく使う、財産を勝手に処分する |
虐待をしている側に自覚がないことも多いのが特徴です。「しつけのつもり」「本人のため」と思ってしていた行為が、虐待にあたる場合があります。また、利用者を「ちゃん」付けで呼ぶ、命令口調で話すといった不適切な関わりは、虐待の入り口になりやすいので注意が必要です。
新人どこからが虐待なのか、判断に迷いそうです。
先輩大切なのは、虐待かどうかを自分で判断してから通報するのではなく、「虐待を受けたと思われる」段階で通報することよ。事実の確認や判断は市町村が行うの。迷ったら、まず施設の虐待防止担当者に相談してね。
通報の義務と職員の保護
障害者虐待防止法では、虐待を受けたと思われる障害者を見つけた人は、速やかに市町村に通報しなければならないと定めています。施設の職員も、自分の施設で虐待を見つけた場合は通報する義務があります。
- 通報は、守秘義務違反にはなりません。
- 通報したことを理由に、解雇などの不利益な扱いをしてはいけないと定められています。
- 市町村は、通報した人を特定できる情報をもらしてはいけません。
事業所に義務づけられた虐待防止の取り組み
障害福祉サービス事業所には、2022年度から次の取り組みが義務になりました。2024年度からは、行っていない場合に虐待防止措置未実施減算の対象になります。
- 虐待防止委員会の設置定期的に(少なくとも1年に1回以上)開き、虐待防止の取り組みや、不適切な関わりの事例を検討します。結果は職員に周知します。
- 指針の整備虐待防止の基本的な考え方、委員会の役割、研修の方針、虐待が起きたときの対応の流れなどをまとめます。
- 職員研修の実施全職員に、年1回以上(新規採用時も)研修を行います。参加者と内容を記録します。
- 担当者の配置これらの取り組みを進める責任者を決めます。
あわせて、身体拘束等の適正化の取り組み(委員会・指針・研修)も義務になっています。やむを得ず身体拘束を行う場合は、切迫性・非代替性・一時性の3つの要件をすべて満たしていることを確認し、本人や家族への説明と記録が必要です。
形だけで終わらせないコツ
委員会や研修は、書類をそろえることが目的ではありません。職員が「これはおかしい」と感じたことを気軽に話せる雰囲気づくりが、虐待の防止にいちばん効果があります。不適切な関わりのチェックリストを使って職員が自己点検をしたり、ヒヤリハットのように「ドキッとした関わり」を共有したりする方法も役立ちます。
虐待の背景には、職員の疲れや人手不足、支援の方法がわからない不安があることも多いです。強度行動障害のある利用者への支援方法を学ぶ研修や、一人で抱えこまないチームでの支援も、虐待防止につながります。
虐待が疑われるときの事業所の対応の流れ
- 利用者の安全を確保するけががあれば手当てや受診を行い、必要に応じて関係する職員を利用者から離します。
- 管理者・虐待防止担当者に報告する見たこと、聞いたことを、日時や場所とあわせて事実のまま伝えます。
- 市町村に通報する事業所としても通報します。職員個人が通報することもできます。
- 市町村の調査に協力する記録や勤務表の提出、聞き取りに協力します。
- 原因を分析し、再発を防ぐ虐待防止委員会で原因を検討し、改善の計画を立てて実行します。家族への説明も誠実に行います。
記録は、あとから書き直したりせず、気づいたときの事実をそのまま残すことが大切です。推測や評価ではなく、「何時ごろ、どこで、誰が、何をしていたか」を具体的に書きましょう。
よくある質問
委員会は、ほかの会議と一緒に開いてもいいですか?
家族による虐待に気づいた場合は?
職場で働く障害者への虐待は、どこに相談しますか?
研修はオンラインでも大丈夫ですか?
- 障害者虐待防止法は、養護者・施設従事者等・使用者による虐待を対象にしている
- 虐待は身体的・性的・心理的・ネグレクト・経済的の5種類
- 虐待を受けたと思われる障害者を見つけたら、市町村に通報する義務がある
- 事業所は委員会・指針・研修・担当者の4つが義務。未実施は減算の対象
- 話しやすい職場づくりと、支援方法を学ぶ機会が、虐待防止の土台になる
















